生物用語(細胞生物学)

細胞生物学は、細胞の構造や細胞の形態などを研究対象とする分野である。生体個体に生じる様々な生理現象を細胞レベルで解決しようとする生物の基礎分野の一つである。しかし、近年の生物分野における目覚ましい発展により、細胞生物学は分子生物学、生化学や遺伝学などとも密接に関係するようになり、これらを明確に区別することはできなくなりつつある。このページでは細胞生物学に関連した生物用語を、その説明とともに掲載する。

細胞周期 (cell cycle)

母細胞が細胞分裂により娘細胞になるまでの過程を細胞周期という。細胞周期は G1 期、S 期、G2 期および M 期によって構成される。G1 期は DNA 合成準備期であり、DNA 複製に必要な酵素や細胞小器官などの合成が盛んに行われる。次ぐ S 期では DNA の合成が行われる。DNA の合成が完了すると細胞周期チェックポイント機構が働き、DNA に損傷や複製ミスが存在する場合はこれらを修復し後に G2 期に進む。G2 期ではタンパク質の合成や有糸分裂に必要な微小管などが作られる。最後に、M 期において有糸分裂と細胞質分裂が行われ、娘細胞ができる。

胚性幹細胞、ES細胞 (embryonic stem cell)

動物の初期胚(胚盤胞期)に由来する胚細胞で、すべての臓器に分化する能力を保持した全能性をもつ幹細胞のこと。ES 細胞を作成する際に発生が進んだ受精卵を必要とするため、ヒトの ES 細胞を作成する際に倫理問題に直面する。

造血幹細胞、HSC (hematopoietic stem cell)

骨髄中に存在し、白血球、赤血球、血小板、肥満細胞などの血球細胞に分化可能な幹細胞のこと。血球細胞には寿命があるため、常に造血幹細胞による供給が必要がある。

人工多能性幹細胞、iPS 細胞 (induced pluripotent stem cell)

体細胞に数個の遺伝子を導入することによって作成される全能性を持つ幹細胞のこと。iPS 細胞は細胞分裂により増殖してもその全能性を維持できる。山中伸弥らによって初めて作成された。

アポトーシス (apoptosis)

がん細胞などの異常細胞や老化した細胞などの細胞が、自発的に細胞死を起こすこと。アポトーシスが誘導される細胞は、カスパーゼカスケードと呼ばれる一連のシグナル伝達経路により、DNA 分解酵素の働きが促進され、DNA をヌクレオソーム単位で切断する。

ネクローシス (necrosis)

細菌やウィルスの感染、養分の供給不足、物理的破壊や化学的損傷などが原因によって細胞質が変化し、細胞が死に至る形態である。ネクローシスは細胞の壊死とも呼ばれる。

細胞骨格 (cytoskeleton)

細胞の形態や構造を維持する繊維であり、細胞内輸送、細胞の運動などに関わる。また、その直径によりマイクロフィラメント、中間径フィラメントと微小管に分類される。

マイクロフィラメント
microfilaments
アクチンフィラメントは、アクチンが繊維状に重合してできるポリマーである。直径が 5-9 nm の繊維で細胞膜の直下に集中し、細胞の形を保つ作用がある。また、ミオシンとともに骨格筋を形成する。
中間径フィラメント
intermediate filaments
直径が 10 nm 前後の繊維であり、3 種類の繊維の中で強度が最も強く、細胞の形態を保つ働きを持つ。
微小管
microtubules
直径が 25 nm の繊維で、主にαチューブリンとβチューブリンのヘテロ二量体を基本単位として構成される。微小管には方向性があり、チューブリン二量体が付加しやすい側を + 端、乖離しやすい側を - 端という。モータータンパク質であるキネシンは物質を - 端から + 端に輸送し、ダイニンは物質を + 端から - 端に輸送する。

流動モザイクモデル (fluid mosaic model)

Singer と Nicolson によって提唱された生体膜の構造モデルである。脂質二重層から構成される生体膜の中に、タンパク質がモザイク状に入れ混じり、拘束を受けながら流動性を持つモデルである。

脂質二重層 (lipid bilayer)

リン脂質が隙間なく並んだ層が二つの層を形成すること。リン脂質は疎水性の部分と親水性の部分の両方を持つため、水溶液中では疎水性の部分が外部に、親水性の部分が内部に 2 重層の膜を作る。リン脂質からなる脂質二重膜は生体膜の主成分である。

シプナス (synapse)

シプナスは神経細胞の末端に存在する部位である。神経細胞に伝えられた情報が末端に到達すると、シプナスからシプナス小胞が放出される。シプナス小胞の中には神経伝達物質が存在し、これが次の神経細胞に受容されることで、神経細胞の末端に到達した情報を次の神経細胞に伝達できる。

交感神経系 (sympathetic nervous system)

自律神経系の一つで、体組織を興奮状態にする作用を持つ。心拍数を上昇させたり、グリコーゲンの分解促進、発汗、血管の収縮などに働く。交感神経系の末梢神経は、交感神経幹に存在する神経節を隔てて効果器につながる。神経伝達物質はノルアドレナリンなどがある。

副交感神経系 (parasympathetic nervous system)

自律神経系の一つで、体組織を安静状態にする作用を持つ。瞳孔の収束、心拍数の低下、グリコーゲンの合成促進、インスリンの分泌促進などに働く。副交感神経は遠心性であり、臓器付近あるいは臓器内に存在する神経節を隔てて効果器につながる。神経伝達物質はアセチルコリンなどがある。