生態学は生物と環境の交互作用を中心に研究する生物学の一分野である。生物個体あるいは個体群、群集などの大きなスケールに着目して研究が行わる場合が多い。このページでは生態学に関係する生物用語を載せている。
r-K 戦略 (r/K selection theory)
生物種が繁殖するときに取られる戦略のこと。子供をできるだけ多く残す r 戦略と適応能力の強い子供を確実に残す K 戦略がある。
個体群の成長速度はロジスティック式によって説明される。ある個体が残す子供の数はほぼ同じであり、その増加率を r とする。また、利用できる資源や環境は有限であるため、その環境収容力を K とする。このとき、個体群の成長速度は次のように計算される。ただし、N は全個体数を表す。
この式に基いて、r 戦略と K 戦略は以下のように説明される。
r 戦略 | 増加率 r を大きくする戦略である。すなわち、できるだけ多くの子供を残そうとする戦略である。環境の変化が激しい場所に生息する生物種が取る戦略である。このため環境の変化によって大部分の個体が死滅しても、生き残ったわずかの個体で、再び繁殖し子孫を残すことができる。 |
K 戦略 | 環境収容力 K に関した戦略で、その環境収容力において、競争力の強い子供を確実に残そうとする戦略である。環境の変動が少なく、安定している場所に生息する生物種が取る戦略である。安定な環境において、生態的同位種が生息空間や餌などを奪い合うようになり、種間競争が強くなる。K 戦略では、このような激しい競争下において、競争能力の高い子供を確実に残すそうとする戦略である。 |
概日リズム (circadian rhythm)
生物が示す約 1 日周期ので繰り返される生理現象のこと。概日リズムは、概日時計と呼ばれる振動体によて持たされる。哺乳類の概日時計は視交叉上核に存在し、内在的に周期を形成する。ほとんどの生物の概日リズムは約24時間以上であるが、光や温度などの刺激によって24時間に修正される。
生態的地位、ニッチ (niche)
生物が生態系の中で占める位置。生息場所、餌の種類やサイズなどによって特徴付けられる。複数の生物種が同じニッチを占めると、生息場所や餌を奪い合うようになり、種間競争が起きる。
二名法 (scientific name)
リンネによって提唱された生物種に付けられる学名。属名と種小名で構成される。属名の頭文字は大文字で始まり、学名全体がイタリックによって記載される。例えばヒトの場合は Homo sapiens となる。文章の中で2回目以降に用いる場合は、属名をその頭文字とピリオドに短縮して H. sapiens とすることも可能である。
食物連鎖 (food chain)
生態系において、捕食と被食の関係。植物を食べる草食動物、草食動物を食べる肉食動物のように、生物種同士が食う食われる関係にあるとき、これらを食物連鎖をなすという。食物連鎖は概ね生食連鎖と腐食連鎖に分けられる。
生食連鎖 grazing food chain |
生食連鎖とは、草食動物が生きた植物体を捕食することから始まる食物連鎖である。植物、草食動物、肉食動物のように食物連鎖を成す。植物が、無機物から有機物を合成し、その有機物が食物連鎖に従い様々な栄養段階に運ばれる。 |
腐食連鎖 detritus food chain |
林床の落葉や落枝、動物の死骸などを分解者(小型の土壌動物、菌類や細菌など)が摂取することから始まる食物連鎖である。腐食連鎖において、有機物が最終的に無機物に分解され、自然界に元される。 |
撹乱 (disturbance)
様々な要因によって、生態系の定常状態が短期的に乱されること。撹乱とる要因は、突発な気象の変化や知識の変化、あるいは人為的な操作などが考えられる。
撹乱に関係して、撹乱と生物多様性の関係を示す中規模撹乱仮説がある。撹乱の頻度が低いとき、優占種が生物群集の大部分を占める。逆に、撹乱の頻度が高いとき、様々な環境変化に対して適応能力の高い生物種が生物群集の大部分を占める。いずれの場合も、生物群集の種多様性が低い。しかし、撹乱の頻度が中程度であると、多くの形質をもった生物種が存続できるようになり、種多様性が高くなる。
メタ個体群 (metapopulation)
メタ個体群は、複数の個体群の集まりである。メタ個体群を形成する個体群間では個体の出入りがあり、交互に関係しあっている。
栄養段階 (trophic level)
食う食われる関係により構成される食物連鎖の各段階を栄養段階という。例えば、植物、草食動物、肉食動物によって構成される食物連鎖の栄養段階は、三段階に分けられる。それぞれ、生産者(植物)、一次消費者(草食動物)と二次消費者(肉食動物)である。
栄養段階は上にいくほどエネルギー量が減少する。例えば、植物が光合成により固定したエネルギーがすべて草食動物に摂取されることが不可能である。つまり、生産者の栄養段階に比べ、一次消費者の栄養段階のエネルギー量が少ない。同様に、肉食動物がすべての草食動物を捕食することが不可能であるから、二次消費者の栄養段階のエネルギーがさらに小さくなる。
密度効果 (crowding effect)
個体群の密度が上昇することにより、各個体の繁殖率、死亡率や行動に変化が生じ、個体群の増加率に影響が現れること。生息空間と餌の量などが限られている環境下、個体数が増えると、一個体あたりの利用できる空間や餌の量が減少する。このため、種内競争が生じるようになり、増殖率の低下や死亡率の増加などが見られるようになる。また、限られた生息空間において、排泄物の増加などにより生息環境が悪化されることも密度効果の要因の一つとされる。
生態的同位種 (ecological equivalent species)
住む環境や食べる餌が似ていることで、同じ生態的地位(ニッチ)を占める種同士のこと。ニッチが重なることで、限られた空間を奪い合ったり、限られた餌を奪い合ったりする種間競争が生じる。
植生遷移 (ecological succession)
植生遷移は、ある場所で植物の群集構成が時間とともに変化し、極相に達するまでの過程。植生遷移は陸上で進行する乾性遷移と水圏で進行する湿性遷移がある。
乾性遷移 | 陸上で進行する植生遷移。遷移の開始状態に応じて一次遷移と二次遷移に分けられる。 一次遷移は土壌が存在しない状態で開始される遷移である。地表に存在する岩石などは物理的あるい化学的な風化作用を受け、保水力のない土壌を形成する。次に、地衣類やコケ類が棲みつき、有機物が蓄積し、土壌が熟成する。続いて草本植物が侵入し、草原ができる。やがて、木本の侵入し、低木林、陽樹林、そして陰樹林へと変化し、極相に達する。 二次遷移は、成熟した土壌があり、土壌の中に種子や植物の根などが存在する状態で開始される遷移である。土壌が成熟した後の一次遷移と同様な過程で極相に達する。 |
湿性遷移 | 水圏で進行する遷移である。始めは貧栄養湖にプランクトンが棲みつき有機物を蓄積させる。続いて、水草や抽水植物などが進入する。有機物の蓄積により、湖は浅くなり、やがて湿原に変化する。環境によっては、草原に遷移し、乾性遷移が開始される。 |
遺伝子プール (gene pool)
個体群を構成する全個体がもつ遺伝子の全体をいう。遺伝的浮動などにより遺伝子プールの内容が変化する。
遺伝子頻度 (allele frequency)
ある個体群における各々の対立遺伝子が、遺伝子プールの中を占める割合のこと。例えば個体群の個体数は 10 で、ある対立遺伝子(A と a)を調べたとき AA が5個体、Aa が3個体、aa が個体である場合、A の遺伝子頻度は (2×5 + 3) / (10×2) = 0.65、a の遺伝子頻度は (2×2 + 3) / (10×2) = 0.35 と計算できる。
血縁選択説 (kin selection)
生物の進化において選択を考える際に、個体自己の繁殖成功だけでなく、その個体の血縁者の繁殖成功も考慮にいれる、とする説。社会性昆虫などに見られる利他行動を説明することができる。
例えば半倍数性の動物では、母親が 2 倍体で、父親が 1 倍体である。このとき、母親と息子の血縁度は 0.5、母親と娘の血縁度は 0.5 となる。しかし、姉と妹の血縁度は 0.5×0.5 + 0.5×1 = 0.75 である。そのため、個体は自己で繁殖するよりも、姉妹の繁殖を手伝う方が、自己と血縁度の高い子供を残すことができる。
種内競争 (intraspecific competition)
種内競争とは、同じ生物種が棲みか、餌や交配相手などを奪い合うこと。種内競争の例として、同じ群集にある植物個体が、光をより多く獲得するために、周りにある他個体よりも、背を高くしたりするなどが挙げられる。ほとんどの場合、種内競争に勝つ個体が存続する機会が大きくなり、より多くの子孫を作ることができる。
種間競争 (interspecific competition)
同じニッチを占用する生態的同位種が、生息場所や餌などを奪い合うこと。
性的二型 (sexual dimorphism)
生殖器以外に、雌雄の差を区別できるもの。羽毛の色、体格の構造、運動能力などとして見られる場合がある。具体的にトナカイの角の大きさ、孔雀の羽の色彩と大きさなどがある。
適応 (daptation)
生物の持つ形態、行動、代謝機構や生活史などの形質が、その環境において生存や繁殖に有利であり、生涯繁殖成功が高い状態をいう。
形態 | 体の大きさ、体色、体形、模様など |
行動 | 餌の捕り方、棲む場所の移動など |
代謝機構 | 代謝産物、代謝速度など |
生活史 | 成熟の早さ、子供の個体数、寿命など |