生物が、どのようにして共通の祖先から分岐して多様性を示したのかなどを、中心に研究を行う学問である。古くは、ダーヴィンとウォレスによっての提唱された自然選択説などのように生物の表現型などに着目して研究が行われきたが、現在では分子生物学的な手法を取り入れて、核酸レベルで研究が行われるようになった。このページでは進化学に関係する用語とその説明を載せている。
オーソログ (ortholog)
異なる生物種に存在する、機能が相似する遺伝子群の関係をいう。同じ祖先遺伝子から種分化によって異なる生物種に受け継がれたと考えられる。
パラログ (paralog)
共通の遺伝子から遺伝子重複によって生じた相同性を持つ遺伝子群の関係をいう。
進化の総合説、ネオダーウィニズム (neo-Darwinism)
用不用説、自然選択説、隔離説、突然変異説や中立説などを統合して進化を説明しようする説。
進化説 | 提唱者 | 内容 |
用不用説 | ラマルク | よく使う器官が発達し、使わない器官が退化する |
自然選択説 | ダーウィン | その環境に適応した形質だけが子孫に受け継がれる |
隔離説 | 地理的隔離や生物的隔離などによる種分化 | |
突然変異説 | ド・フリース | DNA に生じた突然変異が進化の要因 |
中立説 | 木村 | 生物の生存や生殖に有利でも不利でもない突然変異が進化の要因 |
三ドメイン (three-domain system)
地球上の生物を古細菌(アーケア)、真正細菌(バクテリア)、真核生物(ユーカリア)の 3 グループに分類する説。生物の分類は 16S rRNA の塩基配列の相同性に着目して定量的に行われた。古細菌はメタン菌、超好熱菌など極限環境に生息する生物などを含む。真正細菌は大腸菌、枯草菌、シアノバクテリアなど生物を含む。真核生物は動物、植物などの多様な細胞小器官などを持つ生物である。
小進化と大進化 (microevolution, macroevolution)
小進化とは、種分化に至る前の小さな時間スケールで生じる集団中の遺伝的構成の変化をいう。 大進化とは、種分化以上の大きな時間スケールで生じる集団中の遺伝的構成の変化をいう。
ハーディ・ワインバーグの法則 (Hardy-Weinberg principle)
個体群において、対立遺伝子の遺伝子頻度が、世代が変わっても変化しないことを仮定して、個体群内の遺伝子型の構成を説明する法則。ハーディ・ワインバーグの法則が成立するためには、以下の 5 つの条件が必要である。
- 個体群のサイズが十分に大きい
- 個体群内において自由交配が行われる
- 個体の個体群への出入りがない
- 突然変異が生じない
- 遺伝子型に対して自然選択が働かない
例えば、ある個体群においてある対立遺伝子(A と a)の遺伝子頻度がそれぞれ p と q であるとする(p + q = 1)。この個体群においてハーディ・ワインバーグの法則が成り立つならば、この個体群が作る次世代の個体群の遺伝子型は (p + q)2 の展開式に等しい。すなわち、AA : Aa : aa = p2 : 2pq : q2 である。そこで次世代の遺伝子 A の遺伝子頻度 p' は、
と計算される。a の遺伝子頻度 q' についても同様に q' = q と計算される。このように、遺伝子頻度は世代が変わっても変化しない。
自然選択 (natural selection)
生存または繁殖上不利な対立遺伝子を持つ個体が、子孫を残すことができず、その対立遺伝子が受け継がれずに生物の集団から取り除かれること。自然淘汰とも呼ばれる。自然選択は次の 3 条件が満たされれば必ず働く。
- ある形質が個体間で異なること(変異)
- その変異が子孫に受け継がれること(遺伝)
- その変異が繁殖や生存に影響を与えること(選択)
遺伝的浮動 (genetic drift)
遺伝子頻度が世代を超えて自然選択とは無関係に変化すること。繁殖の過程で、ある特定の対立遺伝子が偶然に何回も選ばれると、その対立遺伝子を持つ子孫が増える。このようなことが何世代にも渡って起きた場合、その対立遺伝子の遺伝子頻度が祖先のそれと異なってくる。ボトルネック効果や創始者効果などとして見られる。
ボトルネック効果 (population bottleneck)
ある生物集団が、環境の変化などにより個体数が極端に減少することにより、遺伝的浮動が促進されること。
創始者効果 (founder effect)
祖先となる生物集団の遺伝子頻度が子孫に影響を与えること。ある生物集団から少数の個体が隔離され、新しい地点で新しく生物集団を形成するとき、新しい生物集団の遺伝子頻度は隔離された少数の個体の影響を強く受ける。そのため、元の生物集団と新しい生物集団における遺伝子頻度が異なる。
適応放散 (adaptive radiation)
限られた祖先から多様な種に分化する現象。例えば、オーストラリア大陸では、有袋類が様々なニッチに適応した結果、多様な生物種が存在するようになった。
化学進化 (chemical evolution)
太古の地球環境において、無機物からタンパク質、核酸や ATP などの生体を構成する有機物が合成される過程。単純な無機物から有機物が合成されることはミラーの実験などにより証明されている。しかし、当時の空気と海水の組成が不明で、アミノ酸の鏡像異性体の特異性、核酸とアミノ酸の対応などがまだ説明できていない部分が多く残されている。
自然発生説 (spontaneous generation)
生物は無生物から生まれるとする学説。アリストテレスが最初に提唱し、多くの昆虫やダニなどはその親から生まれる代わりに泥やごみなどから生まれ、エビやウナギなどは汚泥から自然に発生する、とする仮説である。近代になってパスツールの実験により自然発生説が否定された。
二次共生 (Secondary endosymbiosis)
太古地球において、核を持った生物がバクテリアを取り込み、葉緑体やミトコンドリアが生じたと考えられる。これを一次共生という。続いて、核を持った生物が、さらに葉緑体やミトコンドリアを細胞内に取り込むことを二次共生という。