生物用語(微生物学)

バクテリア、アーケアや原生生物などの個体サイズが非常に小さい生物を研究の対象とした学問である。微生物個体内の生理現象、大量培養による酵素の生成や発酵など幅広い応用分野を持ち、食品工学や薬品工学などを支える基礎分野である。このページでは微生物学に関連した用語とその説明を載せている。

ペプチドグリカン (peptidoglycan)

ペプチドと糖からなる高分子で、真正細菌の細胞膜の外側にある細胞壁を構成する主要物質である。細胞の形態や強度を保ち、増殖時の細胞分裂にも関わる。グラム陽性菌の細胞壁は 20-80 nm で、グラム陰性菌では 7-8 nm である。細胞壁を構成するペプチドグリカンはグラム染色においてエタノールによる脱色を防ぐため、細胞壁の厚いグラム陽性菌では染色が脱色されずに染色が残る。

マイコプラズマ (mycoplasma)

真核生物の細胞内に寄生する真正細菌の一属。ほとんどの場合、特定の真核生物の細胞内に寄生する。また、一部のマイコプラズマは病原性を示し、肺炎などを引き起こす。

グラム陰性菌 (gram-negative bacteria)

グラム染色において、クリスタルバイオレットによる染色が脱色される細菌の総称。グラム陰性菌の細胞質基質は脂質二重層からなる細胞膜(内膜)に覆われている。細胞膜の外側に厚さ 7-8 nm のペプチドグリカン層が存在し、その外側に脂質二重層からなる外膜が存在する。外膜には多くのリポ多糖類が付加されている。大腸菌、サルモネラ菌などがグラム陰性菌である。

グラム陽性菌 (gram-positive bacteria)

グラム染色により青色・紫色に染色される細菌の総称。グラム陽性菌は、脂質二重層からなる細胞膜と、その外側にある厚さ 20-80 nm のペプチドグリカン層によって覆われている。厚いペプチドグリカン層は、エタノールによるクリスタルバイオレットの脱色を防ぐことで、グラム染色において青色・紫色に染色される。Bacillus 属、Streptococcus 属などがグラム陽性菌である。

ツーハイブリッド法 (two-hybrid screening)

タンパク質-タンパク質間相互作用やタンパク質-DNA 間相互作用を調べる手法。酵母の転写活性化因子に GAL4 がある。GAL4 は DNA 結合ドメイン(DBD)と転写活性ドメイン(AD)の 2 つのドメインを持ち、互いが分離可能である。このことを利用してタンパク質-タンパク質間の相互作用を調べる方法がツーハイブリッド法という。

例えば、タンパク質 A と B の相互作用を調べたいとき、A を GAL4 の DBD に融合させ、B を GAL4 の AD に融合させて、細胞内で発現させる。このとき、A と B の間に相互作用があれば、A と B は近接しやすくなり、GAL4 の DBD と AD が複合体を形成しやすくなる。活性化された GAL4 は予め導入したレポーター遺伝子の発現を促進する。一方、A と B の間に相互作用がなければ、A と B は近接しない。従って、BDB と AD の複合体が形成されなく、レポーター遺伝子も発現しない。レポーター遺伝子の発現量を調べることで、A と B の間の相互作用の強さがわかる。

プラスミド (plasmid)

細菌や酵母の細胞質中に存在する DNA で、自律的に増殖し、親から子に伝えられる。環状二本鎖構造を取る。薬物耐性や細菌接合などに関連する。

F プラスミド 細菌の接合に関係するプラスミドであり、F 因子とも呼ばれる。プラスミドは F-DNA により構成され、F-DNA は自己複製遺伝子、F 線毛構造遺伝子、DNA 組換え領域からなる。F プラスミドを持つ細菌は F+菌株あるいは雄菌といい、これを持たない菌を F-菌株あるいは雌菌という。F+菌株は細胞膜上に線毛を持ち、線毛を F-菌株に接合し、F プラスミドを複製して F-菌株に注入する。
R プラスミド 細菌が毒素に対して耐性遺伝子を獲得したとき、耐性遺伝子は核 DNA に取り込まれる場合と、プラスミドに取り込まれる場合がある。このような耐性遺伝子を持ったプラスミドを R プラスミドという。
Ti プラスミド アグロバクテリウムの細胞内にある巨大なプラスミドであり、その一部 T-DNA と呼ばれる領域がある。植物がアグロバクテリウムに感染すると、T-DNA が植物のゲノム上に挿入される。

形質転換 (transformation)

細胞の外部から遺伝子を挿入し、細胞の遺伝的な形質を変化させること。肺炎双球菌の病原性を持たない R 型菌に、病原性を持つ S 型菌の DNA を注入すると、R 型菌が形質転換により病原性を持つようになる。

形質導入 (transduction)

ある細菌の DNA がウィルスなどにより運ばれて別の細菌に移動すること。