N末端則経路

N 末端則経路はタンパク質の寿命を制御しているタンパク質分解経路である。N 端末則活性を持つタンパク質の末端は、タンパク質修飾酵素によって修飾された後に、N 末端残基認識酵素によりユビキチン化され、最終的に 26S プロテアソームにより分解される。この仕組みは、酵母、哺乳類、そして植物に共通して見られる。哺乳類の N 末端残基認識酵素は UBR ファミリーが関与しているのに対して、植物では PRT1 および PRT6 が関与していることがわかっている(Graciet et al., 2009)。

N 末端則経路は 3 つのステージで行なわれると推測されている。初めに、N 末端にシステイン、アスパラギンまたはグルタミン残基を持つタンパク質が修飾を受けて、酸化型システイン、アスパラギン酸およびグルタミン酸に酸化される。次に、アルギニルトランスフェラーゼの働きにより酸化された N 末端にある残基にアルギニンが付加される。アルギニンが付加されたタンパク質は最終的に PRT6 とプロテアソームなどの働きによって分解される。

N末端則経路およびそれに関与している遺伝子

N 末端則経路は植物のシュートと葉の正常発生に寄与している(Graciet et al., 2009)。ATE1 かつ ATE2 遺伝子の変異株ではアルギニルトランスフェラーゼの活性が大きく減るが、完全に消えるわけではない。このような変異株では、植物は葉組織の成長がシュートよりも早くなる。また、伸長成長もしなくなる。

植物が低酸素条件に置かれたとき、低酸素ストレス応答遺伝子は N 末端則経路の調節を受けて発現が促進される(Weits et al., 2014)。エチレン応答転写因子である RAP2.12 や RAP2.2 が N 末端則経路活性を持つことがわかっている。これらの転写因子は好気条件において N 末端則経路により分解されるが、嫌気条件においては分解されずに、核内に入り転写因子として作用する。

References

  • Graciet E, Walter F, Ó'Maoiléidigh DS, Pollmann S, Meyerowitz EM, Varshavsky A, Wellmer F. The N-end rule pathway controls multiple functions during Arabidopsis shoot and leaf development. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009, 106(32):13618-23. DOI: 10.1073/pnas.0906404106 PMID: 19620738
  • Weits DA, Giuntoli B, Kosmacz M, Parlanti S, Hubberten HM, Riegler H, Hoefgen R, Perata P, van Dongen JT, Licausi F. Plant cysteine oxidases control the oxygen-dependent branch of the N-end-rule pathway. Nat Commun. 2014, 5:3425. DOI: 10.1038/ncomms4425 PMID: 24599061