異質倍数体が持つ異なる親種に由来する同一遺伝子

ホメオログ

異なる 2 種のゲノム上に存在する、同じ祖先種に由来する遺伝子はオーソログ(ortholog)と呼ばれる。このような 2 種のゲノムが異質倍数化により誕生した異質倍数体植物に取り込まれると、オーソログ関係にある遺伝子が同じ核内に存在するようになる。これをホメオログ(homeolog)という。

オーソログとホメオログ

homeolog expression bias / transcriptome asymmetry

多くの研究において、異質倍数体の一部のホメオログは同じ頻度で使われていないことが報告されている。 例えば、ある遺伝子 g が親種 A での発現量が EA(g) とし、親種 H での発現量が EH(g) とする。親種 A と親種 H が異質倍数化により誕生した種を F とする。また、種 F において、遺伝子(ホメオログ) g の A ゲノム由来の発現量を Ea(g) とし、H ゲノム由来の発現量を Eh(g) とする。このとき、EA(g):EH(g) ≠ Ea(g):Eh(g) となる現象が確認されている。この現象は homeolog expression bias として知られている(Yu et al., 2013)。

Homeolog expression bias は、組織によって異なることが報告されている。また、近年では、homeolog expression bias は、異質倍数体が置かれた環境によって変化することも報告されている。さらに、世代を経るごとに homeolog expression bias が変化することも報告されている。

  • A. kamchatica (4x = 32, HHLL) は、A. halleri (2x = 16, HH) と A. lyrata (2x = 16, LL) が自然交雑することによって誕生した種である。A. halleri は亜鉛を個体内に高濃度で蓄積できる形質(hyperaccumulation)を持つのに対して、A. lyrata は hyperaccumulation の性質を持たない。両者の交雑種である異質倍数体 A. kamchatica を高亜鉛濃度環境で植栽すると、金属輸送に関わるホメオログは、A ゲノムに比べ、H ゲノムから発現している割合が大きいことが明らかとなった(Paape et al., 2016)。
  • 比較的に高温環境で生息する A. halleri と比較的低温環境で生息する A. lyrata を人工交雑させて作成した A. kamchatica を、低温環境に移して育てると、数個の低温マーカー遺伝子が L ゲノムから多く発現するようになることが報告された(Akama et al., 2014)。
  • 綿は異質倍数体であり、複数系統が知られている。G. herbaceum (2x = 26, AA) と G. raimondii (2x = 26, DD) が生じた。その後、両者が交雑することにより A ゲノムおよび D ゲノムを両方持つ異質倍数体が生じ、この倍数体がさらに 5 つの系統に分かれて水平に進化した。綿を用いた研究では、植物組織の違いによってホメオログの使用頻度が異っていることを明らかにした(Adams et al., 2003)。この研究に用いた綿は A ゲノムを 2 セット、D ゲノムを 2 セット持つ異質倍数体である。異質倍数体の A ゲノムよび D ゲノムに由来するの比率を cDNA-SSCP 解析により、植物組織によって異なることが確認された。例えば、adhA アルコールデヒドロゲナーゼは葉組織では D:A = 65:35 であるのに対して、花弁では D:A = 100:0、子葉では D:A = 34:66 などのように異なっている。また、5 つの系統ではそれぞれ異なるバイアスを持つことも明らかにした。

異質倍数体のホメオログの発現量は、その親種の遺伝子発現量の特徴を受け継いでいると考えられている(Gottlieb, 2003, Buggs et al., 2014, Soltis et al., 2013, Wang et al., 2016)。棉を例にすると、棉の A ゲノムから発現するホメオログの発現プロファイルは、A ゲノムを持つ 2 倍体祖先種の発現プロファイルと似た特徴を持つ。また、棉の D ゲノムから発現するホメオログの発現プロファイルは、D ゲノムを持つ 2 倍体の祖先種の発現プロファイルに似ている。このように、発現量における祖先種(親種)の parental legacy は、異質倍数体に受け継がれていく。異質倍数体に受け継がれた parental legacy は、周りの環境などへの適応によって、徐々に失われていく。そして、異質倍数体は誕生してから年月が長いほど、その parental legacy を失われていき、homeolgo expression bias を持つホメロオグの割合が増えていくと考えられる。

balanced/unbalanced homeolog expression bias

Homeolog expression bias は、1 つのホメオログに着目した際に考える概念である。これについて、細胞内全ホメオログの発現量に着目した時に、その発現量のバイアスに対して、balanced homeolog expression bias と unbalanced homeolog expression bias となる概念が提唱されている(Yu et al., 2013)。balanced homeolog expression bias とは、父親由来のゲノムに偏って発現する遺伝子の数と母親由来のゲノムに偏って発現する遺伝子の数がほぼ同じであるときのことをいう。これに対して、unbalanced homeolog expression bias はほとんどの遺伝子が、父親由来のゲノムあるいは母親由来のゲノムに偏って発現する場合のことをいう。

genome dominance

homeolog expression bias に対して、もう一つ似た概念がある。これは genome dominance と呼ばれている。異質倍数体のホメオログの発現量が両親種のうちどれかがに等しいという現象である。具体的に Ea(g) + Eh(g) = EA(g) または Ea(g) + Eh(g) = EH(g) の現象を指すときに利用する(Yu et al., 2013)。

References

  • Adams KL, Cronn R, Percifield R, Wendel JF. Genes duplicated by polyploidy show unequal contributions to the transcriptome and organ-specific reciprocal silencing. Proc Natl Acad Sci USA. 2003, 100(8):4649-54. DOI: 10.1073/pnas.0630618100 PMID: 12665616
  • Yoo MJ, Szadkowski E, Wendel JF. Homoeolog expression bias and expression level dominance in allopolyploid cotton. Heredity 2013, 110(2):171-80. DOI: 10.1038/hdy.2012.94 PMID: 23169565
  • Akama S, Shimizu-Inatsugi R, Shimizu KK, Sese J. Genome-wide quantification of homeolog expression ratio revealed nonstochastic gene regulation in synthetic allopolyploid Arabidopsis. Nucleic Acids Res. 2014, 42(6):e46. DOI: 10.1093/nar/gkt1376 PMID: 24423873
  • Paape T, Hatakeyama M, Shimizu-Inatsugi R, Cereghetti T, Onda Y, Kenta T, Sese J, Shimizu KK. Conserved but Attenuated Parental Gene Expression in Allopolyploids: Constitutive Zinc Hyperaccumulation in the Allotetraploid Arabidopsis kamchatica. Mol Biol Evol. 2016, 3311:2781-2800. DOI: 10.1093/molbev/msw141 PMID: 27413047
  • Wang X, Zhang H, Li Y, Zhang Z, Li L, Liu B. Transcriptome asymmetry in synthetic and natural allotetraploid wheats, revealed by RNA-sequencing. New Phytol. 2016, 209(3):1264-77. DOI: 10.1111/nph.13678 PMID: 12886270
  • Gottlieb LD. Plant polyploidy: gene expression and genetic redundancy. Heredity. 2003, 91(2):91-2. DOI: 10.1038/sj.hdy.6800317 PMID: 12886270
  • Buggs RJ, Wendel JF, Doyle JJ, Soltis DE, Soltis PS, Coate JE. The legacy of diploid progenitors in allopolyploid gene expression patterns. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2014, 369(1648). DOI: 10.1098/rstb.2013.0354 PMID: 27413047
  • Soltis PS, Liu X, Marchant DB, Visger CJ, Soltis DE. Polyploidy and novelty: Gottlieb's legacy. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2006, 3311:2781-2800. DOI: 10.1098/rstb.2013.0351 PMID: 27413047