倍数化

ゲノムのセット数が、通常の数よりも多くなる現象を倍数化(polyploidizaiton)という。動物、菌類、植物などに普遍的に見られる。とりわけ植物でよく見られ、ほぼすべての被子植物が進化の過程において 1 回以上の倍数化を経験していると言われている(Adams et al., 2003, Masterson, 1994)。

倍数化は、同質倍数化(autopolyploidization)と異質倍数化(allopolyploidization)に分類できる(Yoo et al., 2013)。同質倍数化は、同種間の交雑により、同じ種に由来するゲノムが 1 つの核に取り込まれることによって起こる倍数化である。これに対して、異質倍数化は、異種間の交雑により、異なる種に由来するゲノムが 1 つの核に取り込まれることによって起こる倍数化である。

同質倍数化と異質倍数化の違い

自然界で生息している植物は、2 倍体が多く、多倍数体が少ない。2 倍体と多倍数体の植物の数を調べた研究によれば、自然界で見られる多倍数体の数は 2 倍体に比べて少なく、また、同質倍数化により誕生した同質倍数体の数と異質倍数化により誕生した異質倍数体の数はそれぞれほぼ同じぐらいであった(Barker et al., 2016)。具体的に、Barker らは、文献データを利用して 47 属 4003 種の維管束植物の倍数性を調査した。その結果、全種のうち 76% が 2 倍体であり、13% が同質倍数体であり、残りの 11% が異質倍数体であることを報告した。また、各属それぞれについて同質倍数体と異質倍数体の数の比率を調べたところ、ほとんどの属においてその比率は 1:1 となっていたが、同質倍数体の数が多かったり、異質倍数体の数が多かったりするような属も見られた。Barker らが報告した 47 属のうち 5 属のデータを次の表に示した(完全なデータは Barker らの論文の Table 1 を参照)。

2 倍体の数同質倍数体の数異質倍数体の数
Arabidopsis1634
Cardamine311710
Gossypium3935
Iris1281816
Centaurea234448

同質倍数化

同質倍数体は、2 倍体に比べ、植物個体が大きくなったりする傾向が見られる。そのため、同質倍数化を利用した農作物の改良などが多く行われている。例えば、同質倍数体として知られる農作物には、じゃがいも(4 倍体)、さつまいも(6 倍体)、コーヒー(4 倍体、6 倍体など)やピーナツ(4 倍体)などがある。また、同質倍数化により作られた 3 倍体の植物は不稔性を持つので、種なしスイカ(3 倍体)の作成などに応用されている。

異質倍数化

異質倍数体は、異なる親種のゲノムを 1 つの核内に同時に持つ。そのため、異質倍数体は、親種の中間的なニッチあるいは親種のニッチに比べてより広範囲なニッチに適応できると考えられている。実際には、多くの研究において、このような現象が報告されている。

異質倍数体には、小麦(6 倍体)、綿(4 倍体)、セイヨウアブラナ(4 倍体)、タネツケバナ(3 倍体、4 倍体)、バナナ(3 倍体)などがある。

References

  • Adams KL, Cronn R, Percifield R, Wendel JF. Genes duplicated by polyploidy show unequal contributions to the transcriptome and organ-specific reciprocal silencing. Proc Natl Acad Sci USA. 2003, 100(8):4649-54. DOI: 10.1073/pnas.0630618100 PMID: 12665616
  • Masterson J. Stomatal size in fossil plants: evidence for polyploidy in majority of angiosperms. Science 1994, 264(5157):421-4. DOI: 10.1126/science.264.5157.421 PMID: 17836906
  • Yoo MJ, Szadkowski E, Wendel JF. Homoeolog expression bias and expression level dominance in allopolyploid cotton. Heredity 2013, 110(2):171-80. DOI: 10.1038/hdy.2012.94 PMID: 23169565
  • Barker MS, Arrigo N, Baniaga AE, Li Z, Levin DA. On the relative abundance of autopolyploids and allopolyploids. New Phytol. 2016, 210(2):391-8. DOI: 10.1111/nph.13698