倍数体の形成

倍数体の形成は、生物が(とくに植物が)非還元性配偶子を作ることが原因の一つと考えられている(Ramsey et al., 1998)。非還元性配偶子とは、配偶子を作る過程において、異常な減数分裂によって作られた 2n の核相を持つ配偶子である。非還元性配偶子と正常な配偶子の掛け合わせで 3 倍体が作られたり、また、非還元性配偶子と非還元性配偶子の掛け合わせで 4 倍体が作られる。正常に減数分裂が行われる確率が高いので、確率的には 3 倍体の方が多く作られる。しかし、3 倍体は奇数の染色体セットを持つために、種子を残せないことが多い。このような 3 倍体は自家受粉または他家受粉によってさらに倍数化し安定な倍数体となったり、あるいは栄養生殖などによって繁栄している。

非還元性配偶子の形成

雌しべの胚のう母細胞(2n)が減数分裂することにより胚のう細胞が形成される。胚のう細胞は、核分裂を 3 回繰り返し、8 つの核を持つ細胞にある。続いて、細胞質分裂を行い、1 つの卵細胞(n)、1 つの中央細胞(2n)、3 つの反足細胞(n)、および 2 つの助細胞(n)の計 7 つの細胞からなる胚のうが形成される。このように胚のうの形成時に、還元性と非還元性の細胞の両方が同時に作られる。胚のうの形成時に、植物が何らかのストレスに晒されると、2n の核相を持った卵細胞を作りやすくなる。非還元性配偶である卵細胞(2n)が正常な花粉(n)と受粉することにより、3n の核相を持った 3 倍体が植物が形成される。

これまでの研究によれば、特に気温の変化が非還元性配偶子の形成に大きく影響を与えているのではないかと考えられている。また、気温のほかに、光周期の変化や乾燥ストレスなども非還元性配偶子の形成に影響を与えていることがわかってきた。つまり、外部環境の変動に起因するストレスにより、植物は非還元性配偶を高い確率で形成するようになると考えられる。そのためか、過酷な環境を示す区域で異質倍数体の生息がよく確認されることと何らかの関係があるのではないかと考えられている。

3 倍体

triploid bridge

倍数体が子孫を残せるかどうかを考えれば、4 倍体などのように偶数の倍数体の方が有利である。しかし、倍数体の形成は、非還元性配偶と非還元性配偶の融合により 4 倍体が形成される確率よりも、非還元性配偶と還元性配偶の融合により 3 倍体が形成される確率が高い。そのため、現在では、3 倍体がまず形成され、その後 3 倍体が自分自身との掛け合わせ、あるいは、2 倍体親種の還元性配偶との掛け合わせなどにより、偶数の倍数体である 6 倍体や 4 倍体などが形成されたのではないかという考え方が見られるようになった。このように、3 倍体を介して、安定的な偶数の倍数体が形成されることを、triploid bridge などと呼ばれている(Comai, 2005, Köhler et al., 2010)。

triploid bridge とは、3 倍体を介して偶数の倍数体が形成されることを言う。

triploid block

倍数体は、triploid bridge と呼ばれる 3 倍体の形成を介して 2 段階で行われることがある。しかし、異常な減数分裂によって形成される非還元性配偶子を持つ胚のうは正常でないことが多い。そのため、非還元性配偶子である卵細胞と還元性配偶子である精細胞の受精によって 3 倍体の種子が作られるものの、その種子の発芽率は非常に低い。また、たとえ、その種子が発芽して、正常に生育できたとしても、配偶子を作るときは核相が 1n、2n、や 3n のような配偶子が作られる。このような配偶子は、3 倍体の子孫を残す確率をさらに減らしていくになる。このように、3 倍体種子の発芽率や子孫を残す確率などを考えれば、3 倍体は常に消滅する危機にある。

triploid bridge 以外の倍数体形成パスウェイ

安定な倍数体の形成には、triploid bridge 以外にも次のようなパスウェイが考えられている(Mason, 2015)。

安定的な倍数体を形成するためのパスウェイ。

References

  • Ramsey J, Schemske DW. Pathways, mechanisms, and rates of polyploid formation in flowering plants. Annual Review of Ecology and Systematics 1998, 29:467-501. DOI: 10.1146/annurev.ecolsys.29.1.467
  • Comai L. The advantages and disadvantages of being polyploid. Nat Rev Genet. 2005, 6(11):836-46. DOI: 10.1038/nrg1711
  • Köhler C, Mittelsten Scheid O, Erilova A. The impact of the triploid block on the origin and evolution of polyploid plants. Trends Genet. 2010, 26(3):142-8. DOI: 10.1016/j.tig.2009.12.006
  • Schinkel CCF, Kirchheimer B, Dullinger S, Geelen D, Storme ND, Hörandlcorresponding E. Pathways to polyploidy: indications of a female triploid bridge in the alpine species Ranunculus kuepferi (Ranunculaceae). Plant Syst Evol. 2017, 303(8):1093–1108. DOI: 10.1007/s00606-017-1435-6
  • Mason AS, Pires JC. Unreduced gametes: meiotic mishap or evolutionary mechanism?. Trends Genet. 2015, 31(1):5–10. DOI: 10.1016/j.tig.2014.09.011