転写物発現量の定量は、組織から抽出した転写物(RNA)の質と量に影響される。そのため、発現量解析の成否は、植物組織の保存状態に影響される。植物組織の保存は、一般的に 2 つの方法が使われている。
- 液体窒素を利用する方法
採取した植物組織をすばやく液体窒素につけることで、組織の各細胞の代謝は瞬時に止まる。このように保存した組織が持つ RNA は、採取した直前の状態を保っている。液体窒素が利用できる環境下であれば、優れた方法といえる。 - RNAlater を利用する方法
採取した植物組織を液体試薬である RNAlater につけることで、RNAlater が組織の細胞内に染み込み、細胞内の RNase や DNase などを変性させることによって、RNA の代謝を止める。RNAlater の保存性がよく、RNAlater に付けた組織が数年間保存できると言われている。ただし、RNAlater が細胞内部に染み込むまでに時間がかなるため、組織を採取してからしばらく RNA が分解される可能性がある。
液体窒素処理と RNAlater 処理との間にどれほど違いがみられるかを定量した実験が報告されている(Kruse et al., 2017)。この実験では、A. thaliana の実生苗を液体処理したサンプルと RNAlater 処理し、それぞれから RNA を抽出して RNA-Seq により転写物の発現量を定量した。その結果、およそ 2% の転写物が、液体窒素処理と RNAlater 処理とで異なる発現量を示めされた。
A. thaliana の実生苗に関しては 2% の転写物に、発現量の違いが見られた。このことから、その他の組織でも、転写物の発現量に違いが見られると考えられる。とくに、植物によっては、葉にワックスがかかっていたり、毛が生えていたりすることで、RNAlater の染み込みをさらに遅らせることも考えられる。大かがりの実験を行うとき、両者がどれぐらい異なるかを、一度、定量 PCR などで調べたほうがいいかもしれない。
References
- Transcriptome and proteome responses in RNAlater preserved tissue of Arabidopsis thaliana. PLoS One. 2017, 12(4):e0175943. DOI: 10.1371/journal.pone.0175943 PMID: 28423006