ハウスキーピング遺伝子

ハウスキーピング遺伝子は、すべての細胞で発現し、エネルギーの代謝や細胞機能の維持に必要不可欠な遺伝子である。遺伝子発現量解析に関連した様々な生物実験のコントロールとして利用される。代表的なものは GAPDH、β-アクチンやユビキチンなどがある。しかし、実験によってはハウスキーピング遺伝子の性質を熟知した上で選別する必要がある。また、ハウスキーピング遺伝子は、すべての細胞において発現する遺伝子であるが、その発現量が必ずしも等しいわけではない。

ヒトとマウスのハウスキーピング遺伝子は下記の論文にて調べられている。大量なマイクロアレイや超高速シーケンサーのデータを解析することによって、多くのハウスキーピング遺伝が同定されている。しかしながら RT-PCR あるいはそれに同等な手法で検証が行われているものは少ない。

ヒト Affymetrix U95A chip のデータを解析し、調査対象の 47 組織ですべて発現している遺伝子をハウスキーピング遺伝子として定義し、575 個を同定。この内 532 個の遺伝子に対して遺伝子、エクソン、イントロン、5' UTR および 3' UTR の長さを調べたところ、いずれにおいてもハウスキーピング遺伝子の方は、ハウスキーピング遺伝子でない遺伝子に比べ短かった。
Eisenberg E, Levanon EY. Human housekeeping genes are compact. Trends Genet. 2003, 19(7):362-5. PubMed Abstract
WebCite: List of housekeeping genes derived from the article "Human Housekeeping genes are compact"
ヒト Human BodyMap 2.0 Project (HiSeq 2000, RNA-seq) のデータ(GSE30611)を再解析しハウスキーピング遺伝子を 3,804 個同定。ハウスキーピング遺伝子は以下の条件を満たす遺伝子として定義されている。
  1. すべての組織(16 組織)で発現している(ゼロカウントでない)
  2. 各組織においてその発現量が一樣である。(log2RPKM < 1 かつ log2RPKM の平均から 2 倍以上離れていないもの)
Eisenberg E, Levanon EY. Human housekeeping genes, revisited. Trends Genet. 2013, 29(10):569-74. PubMed Abstract
ヒト 104 セットの Affymetrix HG-U133A または HG-U133-Plus2 のチップデータを調べ、43 組織のすべての組織で universally expressed する遺伝子をハウスキーピング遺伝子として定義し、2,064 遺伝子を同定。ハウスキーピング遺伝子に対して GO 解析を行った翻訳、RNA 代謝、リボソーム生合成などの有意 terms が得られた。また、同論文では 2,293 の tissue-selective genes も同定してある。
Chang CW, Cheng WC, Chen CR, Shu WY, Tsai ML, Huang CL, Hsu IC. Identification of human housekeeping genes and tissue-selective genes by microarray meta-analysis. PLoS One. 2011, 6(7):e22859. PubMed Abstract
ヒト、ラット、ショウジョウバエなどのモデル生物のハウスキーピング遺伝子や組織特異的遺伝子などを調べ、データベースで公開(PaGenBase)。ハウスキーピング遺伝子をすべての組織において、その発生段階や生理状態に関係なく ubiquitously 的に発現している遺伝子として定義。解析対象のデータセットは NCBI GEO、GNF BioGPS、EBI ArrayExpress から取得したものを利用。マイクロアレイだけでなく RNA-seq のデータセットも解析対象に含まれている。
Pan JB, Hu SC, Shi D, Cai MC, Li YB, Zou Q, Ji ZL PaGenBase: a pattern gene database for the global and dynamic understanding of gene function. PLoS One. 2013, 8(12):e80747. PubMed Abstract