組織特異的発現遺伝子

発現パターンが組織に特的なパターンを示す遺伝子は tissue specific gene あるいは tissue selective gene などと呼ばれている。tissue specific gene は一つあるいは少数の組織で、それ以外の組織に比べて、特異的に高発現している遺伝子を意味する場合が多い。また、tissue selective gene は一つあるいは少数の組織で、それ以外の組織に比べた時、特に発現量が極端に高かったり、あるいは極端に低かったりする遺伝子を意味する場合が多い。

tissue selective gene は tissue specific gene を含むと考えてもよいが、tissue specific gene と tissue selective gene は異なるものとして定義している場合もある。これらの定義は論文によっては様々である。これらのデータを利用して解析する際に、元論文を辿り定義を調べたほうが無難。

ヒト Yu et al., の論文でヒトの 30 組織にわたって特定した 7,261 個の tissue specific genes をデータベース化(TiGER)。 細胞の中で発現している多くの遺伝子は少数の転写因子によって制御されている。tissue specific genes も組織で特異的に発現している転写因子によって制御されていると考えられ、彼らはこうした組織特異的に発現する転写因子を調べ、それらに制御されている遺伝子を tissue specific genes としている。
Liu X, Yu X, Zack DJ, Zhu H, Qian J. TiGER: a database for tissue-specific gene expression and regulation. BMC Bioinformatics. 2008, 9:271. PubMed Abstract
Yu X, Lin J, Zack DJ, Qian J. Computational analysis of tissue-specific combinatorial gene regulation: predicting interaction between transcription factors in human tissues. Nucleic Acids Res. 2006, 34(17):4925-36. PubMed Abstract
ヒト 104 セットの Affymetrix HG-U133A または HG-U133-Plus2 のチップデータを調べ、43 組織における tissue selective genes を 2,293 個同定。tissue selective genes は少数の組織において、それ以外の組織に比べ exclusively 高発現しているあるいは低発現している遺伝子をいう。また、tissue selective genes は特に血液(15.2%)、精巣(13.3%)、肝臓(10.7%)、脳(9.2%)に多く存在する。
Chang CW, Cheng WC, Chen CR, Shu WY, Tsai ML, Huang CL, Hsu IC. Identification of human housekeeping genes and tissue-selective genes by microarray meta-analysis. PLoS One. 2011, 6(7):e22859. PubMed Abstract
GNF BioGPS、NCBI GEO および EBI ArrayExpress からデータを取得し tissue specific genes を同定。ヒトのデータは 107 組織、マウスは 67 組織、ラットは 30 組織からなる。マイクロアレイの再解析による tissue specific genes を同定するほかに、PubMed に対してテクストマイニングして得られた tissue specific genes も収録し、データベース化(TiSGeD)。
Xiao SJ, Zhang C, Zou Q, Ji ZL. TiSGeD: a database for tissue-specific genes. Bioinformatics. 2003, 26(9):1273-5. PubMed Abstract
ヒト、ラット、ショウジョウバエなどのモデル生物の tissue specific genes および tissue selective genes を調べ、データベースで公開(PaGenBase)。データセットは NCBI GEO、GNF BioGPS、EBI ArrayExpress から取得したものを利用。マイクロアレイだけでなく RNA-seq のデータセットも解析対象に含まれている。
Pan JB, Hu SC, Shi D, Cai MC, Li YB, Zou Q, Ji ZL PaGenBase: a pattern gene database for the global and dynamic understanding of gene function. PLoS One. 2013, 8(12):e80747. PubMed Abstract
UniProt KB のデータにも組織特異的発現遺伝子の情報が記載されている。UniProt KB の各エントリーには cited for の項目があり、該当タンパク質(遺伝子)が組織特異的遺伝子である場合、TISSUE SPECIFICITY と記載される。また、その根拠となる論文の PubMed ID も記載されている。(例:P07911