土壌有機物

土壌中の有機物は生物か非生物かに分けられる。さらに非生物有機物は、生物の遺体と腐植に分けられる。これら非生物有機物を土壌有機物という。土壌有機物は腐植物質と非腐植物質に分けられる。腐植物質は高分子有機物の混合物で構成されている。これに対して、非腐植物質は、多糖類・タンパク質・アミノ酸・脂質・リグニンなどで構成されている。

腐植は、主として芳香族の化合物の重合体からなり、数千~万以上の分子量を持つ。液性は、主にカルボキシル基に起因する酸性を示す。生物の遺体は 9 割近く水と二酸化炭素に分解されるが、残り一割が数百~千年にわたり分解と再結合を繰り返すうちに黒色化が進行し、腐植酸になる。腐植度が高くなるにつれカルボキシル基やカルボニル基が増加し、メトキシル基が減少する。腐植物質に対してアルカリ処理を施し、溶解しないものをヒューミンという。溶解するものに対して、酸処理を施し、不溶なものを腐植酸といい、溶解するものをフルボ酸という。

  • 腐植物質
    • 腐植酸
      液性を酸性にすると沈殿する画分である。カルボキシル基やフェノール性ヒドロキシル基などの弱酸性の解離基を含み、陽イオン交換反応に深くかかわっている。
    • フルボ酸
      液性を酸性にしても溶解する画分である。腐植度がより高い。フルボ酸は吸着画分と非吸着画分にわけることができる。吸着画分は腐植物質に富み、カルボキシル基などの解離基を多く含む。一方、非吸着画分は可用性の多糖類や低分子脂肪族カルボン酸が多い。
    • ヒューミン
      ヒューミンは分子量は大きく、疎水性である。土壌の無機成分との結合が強いために分離が困難である。
  • 非腐植物質
    • 多糖類
      土壌有機物の 5-15% に及ぶ。土壌微生物により合成されるものや植物細胞壁に由来するものもある。
    • リグニン
      樹枝の主な成分で、リグニンが分解されるとポリフェノールにある。ポリフェノールが重合して腐植物質の出発物質となる。
    • 脂質
      樹脂やワックス。微生物が合成するリン脂質などがある。

土壌有機物の働きとして、土壌微生物・植物への養分供給、養分の有効性や有害物の調節、団粒の形成と土壌構造の安定化などがある。また、吸熱効果や保温効果もあり、地温の調節の役割も果たしている。

土壌に含まれる有機物の量は、気候の影響によってその堆積量が異なる。これは、それぞれの気候条件下で、植物の成長速度や微生物の代謝速度が異なるからである。高緯度のツンドラ地帯では、植物の生育が不十分で、地温も低く湿潤である。そのため、有機物の分解速度が非常に遅い。多くの有機物が地表面に堆積される。中緯度では、植物による生産される有機物は多くないものの、乾燥条件にあるため有機物の分解がある程度抑制される。その結果、他の緯度に比べ有機物蓄積量が最も多い。低緯度では、温度が高く、土壌中の微生物活動も活発である。そのため、有機物の分解速度が速く、土壌に有機物がほとんど蓄積されない。低緯度では、有機物の消耗した黄褐色や赤褐色土壌が形成される。